これから話すことは紛れもないノンフィクションである。
朝、出勤して間もなく一本の電話が鳴った。
社長からである。
その電話をT先輩がとり、二言目に発した言葉が
「えぇーーーーーー!?!?!?!?」
であった。
社内に響く大きな声だったので私も驚き、そのやり取りに耳を傾けたが、詳細はわからない。
だが、T先輩の様子からすると只事ではないことがわかる。
会話が終わり、電話を切るとT先輩は
「ちょっと社長の家へ行ってきます!」
と準備を始めた。
「何事ですか?」
おそるおそる聞いてみると
「鳥が……。社長の車の下に鳥がいるんだって!」
…鳥がいる?
雛が親鳥と逸れて、車の下に迷い込んだのか?
何を持っていけばよいかもわからず、急いで現場に行かなければと焦るT先輩。
状況がわからず茫然とする私だったが、来客があり、対応している間にT先輩は出かけて行った。
そして、お客様が帰り、落ち着いて仕事を始めようとするとまた社長からの電話。
今度は上司が出る。
「はい。わかりました。」
落ち着いた様子で一旦会社の外に出た。そしてすぐに戻って来ると
「会社の下に緑色の鳥がいるよ。」
どうやら無事に鳥を保護し、これからその鳥を病院に連れて行くらしい。
上司に許可をもらい、私も会社の外に出た。
車の後ろにピンクの籠が乗っていて、その中を覗いてみると緑色の鳥がいる。
私が想像していたのは、スズメのような小さな鳥。
だが実際は、鳩のような見た目でとても鮮やかな緑色の大きな鳥。
正直私は初めて見る、珍しい色の鳥であった。
「これから、この鳥を動物病院に連れて行ってみる。どうなるかはわからないけれど…。」
と社長は言う。
この鳥を軍手一つで捕まえたT先輩の行動力は実にお見事であったが、見知らぬ鳥を動物病院に連れて行く社長の姿もまた感服の至りである。
もし、私が同じ状況だったら同じことができただろうか。
いや、できなかっただろう。
朝、出勤するために車に乗ろうとして、車の下に鳥が迷い込んでいたら…。
市役所に電話するくらいしかできなかったと思う。
社長は
「みんなだって、同じ状況だったら病院に連れて行くでしょう?」
と言っていたが、同じ行動が出来る人が世の中に何人いるだろう。
そうしたくても、色々なことを言い訳にして、自分が病院に連れて行くとまではならない気がする。
そんな思いを行動に移せる社長の車の下に逃げ込んだこの鳥は、本当に幸運な鳥だと思う。
病院で治療している間、社内ではその鳥を
「あおちゃん(野鳥のアオバト可能性が高いことから)」と名付け、みんなで気にかけていた。
その後、動物病院から連絡があり、その鳥は足を骨折していたことがわかった。
そして、その鳥は野鳥の「アオバト」の可能性が高いため、県で保護してもらえることになったのだ。
保護してもらえることになり、社内全員がホッとした半面、少し寂しい気持ちになった。
まぁ、保護できませんと言われたところで、誰か足が治るまで飼うことはできるのかと聞かれれば難しいことだし、骨折したまま自然に帰すのも厳しいだろう。
「良かったね!」
皆で言い聞かせるように言い合った。
なんだか、見たことのない綺麗な鳥を助けるなんて、おとぎ話のようでとても現実味がないが、これは事実である。
家に帰って、“あおちゃん”のことを旦那に話してみた。
「俺も出勤途中、スズメを助けたことあるよ。」
…え? もしかして私が少数派なのでしょうか。
私ももし、機会があれば動物界の中で英雄となるような手助けをしようと思う。
そうやって、動物界の中の英雄になりたいなどという余計なことを考えているからダメなのだ。
出直してきます。
(Y)
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